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名古屋地方裁判所 平成3年(行ウ)56号 判決

原告 近藤忠則 外一名

被告 大口余野特定土地区画整理組合

主文

一  本件訴え中、被告が平成三年三月二八日付けで別紙目録(1)「従前の土地」欄記載の符号5ないし8の各土地についてした各仮換地指定処分の取消請求に係る部分、被告が平成三年三月二八日付けで別紙目録(2)「従前の土地」欄記載の符号17ないし19の各土地についてした各仮換地指定処分の取消請求に係る部分をいずれも却下する。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が別紙目録(1)「従前の土地」欄記載の符号1ないし4の各土地について昭和六三年一〇月三一日付けでした各仮換地指定処分及び同目録「従前の土地」欄記載の符号5ないし8の各土地について平成三年三月二八日付けでした各仮換地指定処分をいずれも取り消す。

2  被告が別紙目録(2)「従前の土地」欄記載の符号1ないし16の各土地について昭和六三年一〇月三一日付けでした各仮換地指定処分及び同目録「従前の土地」欄記載の符号17ないし19の各土地について平成三年三月二八日付けでした各仮換地指定処分をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

主文第一項及び第三項と同趣旨

2  本案の答弁

(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。

(二) 主文第三項と同趣旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1(一)  原告らは、いずれも愛知県丹羽郡大口町大字余野の地域において、農業に従事する者であり、原告近藤忠則(以下「原告忠則」という。)は、別紙目録(1)「従前の土地」欄記載の各従前地を、原告近藤正明(以下「原告正明」という。)は、別紙目録(2)「従前の土地」欄記載の各従前地をそれぞれ所有していた。

(二)  被告は、愛知県丹羽郡大口町大字余野の地域において、土地区画整理事業を実施するために、昭和六二年一月二六日、愛知県知事の認可を受けて設立された特定土地区画整理組合である。

2(一)  被告は、原告忠則に対し、昭和六三年一〇月三一日付けで別紙目録(1)「従前の土地」欄記載の符号1ないし4の各土地につき、平成三年三月二八日付けで同欄記載の符号5ないし8の各土地につき、それぞれ仮換地指定をした。

(二)  被告は、原告正明に対し、昭和六三年一〇月三一日付けで別紙目録(2)「従前の土地」欄記載の符号1ないし16の各土地につき、平成三年三月二八日付けで同欄記載の符号17ないし19の各土地につき、それぞれ仮換地指定をした。

3  しかしながら、右各仮換地指定(以下「本件各仮換地指定処分」という。)は、次の各事由により違法である。

(一) 手続違反

(1) 不明朗な原図の修正及び仮換地指定の全容の秘匿

本件各仮換地指定処分については、昭和六三年八月一日、被告から委託を受けた訴外愛知県都市整備協会の作成した原案(以下「本件原案」という。)が被告に提出されたが、本件原案は、同年八月四日及び五日の被告理事会の前に、一部の役員のみで恣意的に修正が加えられた。右理事会においては、修正された案が提出されただけであり、修正の合理性、妥当性については全く検討されなかったため、一部の役員が役得を図る等の不公正が発生した。

しかも、被告は、右修正の具体的内容を全く明らかにしない。土地区画整理法(以下単に「法」という。)八四条は、関係簿書の閲覧を「利害関係人」の権利として規定して、情報の公開を要請しているにもかかわらず、被告は、仮換地指定の全容の閲覧を拒否する態度を取っており、仮換地指定の全容を秘匿している。

このような閲覧拒否は、仮換地指定の手続全体の違法をもたらすものというべきである。

(2) 中畠地区四一街区への仮換地指定処分

昭和六二年九月ころ、仮換地指定に先立ち、集合農地区又は第二種生産緑地を仮換地の指定先として希望する者によるその申込手続が行われたが、申込受付開始時に配布された申込用紙には、集合農地区及び第二種生産緑地として、「日高地区」と「少々腰地区」との記載しかなかったため、原告らを初めとする申込者は、日高地区二一街区の集合農地区及び第二種生産緑地への畑地の仮換地を希望してその申込みをした。そして、同年一〇月、被告から原告らを含む申込者に対して「別紙申出書の宅地について換地を集合農地区内に定められるべき宅地として指定します」との通知書が送付されたが、同通知書においても、集合農地区及び第二種生産緑地としては「日高地区」と「少々腰地区」しか記載されていなかった。

しかしながら、本件各仮換地指定処分の際には、集合農地区及び第二種生産緑地として日高地区二一街区のほかに、いつの間にか中畠地区四一街区も仮換地の指定先とされ、原告忠則については申出の一部が、原告正明については申出の全部が中畠地区四一街区へ仮換地指定された。

すなわち、被告は、集合農地区・第二種生産緑地への換地申出手続において、申出書に「日高地区」等の字名により「地区を定めて」申出をすべきものとしていたので、申出をする側としてはその字名の地区内に定められた集合農地区・第二種生産緑地に換地されることを期待して申出をするのが通常であり、他方、実際、被告自身もこの字名により地域を特定する扱いをしていた。したがって、「字日高」地区内に設けられた集合農地区・第二種生産緑地以外の地区に仮換地指定をすることは許されないところ、原告らを含む申込者が、日高地区二一街区へ仮換地指定されることを前提に各申込みを行ったのに、被告は、これを無視して中畠地区四一街区へ仮換地の指定をした。

(3) 原告忠則に対する一二〇街区への仮換地指定処分について

原告忠則は、集合農地区・第二種生産緑地への換地申出手続において、水田用地については、申出書の「希望」欄に「宮二」と記載して「宮西地区」の「第二種生産緑地」地区(一〇六街区)への換地の申出を行い、被告もこの申出のとおりの指定通知をしたにもかかわらず、実際には、少々腰にある一二〇街区へ仮換地指定をした。

したがって、特に右仮換地指定処分は、原告忠則がした申出及び被告のした指定通知と異なる内容であり、その点においても違法である。

(4) 原告らの排除と工事の強行

被告は、本件仮換地に対して審査請求を行った原告ら、特に理事である原告忠則を組合運営から排除し、それらの従前地に対して、強引に工事を強行した。

(二) 照応原則違反

法九八条、八九条により、仮換地指定処分に当たっても照応の原則の適用があるが、さらに、被告の換地規程(以下、単に「換地規程」という。)三条、六条により、仮換地について「なるべく原位置に近い位置において従前の土地の位置に照応するように定める」ことになっている。すなわち、原位置換地の原則は、これが満たされる場合には他の要因についても照応していることが多いのであるから、照応の原則を要請する法の趣旨からすれば、可能な限り原位置に換地すべきである。

しかしながら、本件各仮換地指定処分は、以下のような照応原則違反の点が存在する(なお、以下では土地の表示につき、例えば従前地の日高九六番地を「従前地日高九六」、仮換地の四一街区五―一番を「仮換地四一街区五―一」などと略記する。)。

(1) 原告忠則について

〈1〉 従前地日高九六・同一〇一と仮換地四一街区五―一、従前地日高一三三と仮換地二一街区一〇―二、従前地日高一三四と仮換地二一街区一〇―一・同四一街区五―二について

右各従前地は、いずれも地味の肥えた日高地区にあり、しかも原告忠則の自宅からも近く、農耕には極めて良好な環境にあった。しかし、四一街区への換地は、それによって自宅から遠くなるだけでなく、地味の悪い土地への換地であって、農業経営上大きな不利益を受ける。

また、従前地日高一三四は、日高地区二一街区の集合農地区及び第二種生産緑地に近接しており、従前地日高一三三は同生産緑地に一部かかっているにもかかわらず、換地規定による原位置換地の原則から外れて、二一街区の中でもより遠方の土地に飛び換地されている。

〈2〉 従前地宮西六四・同六五・従前地少々腰一三〇・同一五九と仮換地一二〇街区六について

右従前地は、いずれも少々腰集合農地区及び第二種生産緑地内にあり、特に、従前地宮西六四・同六五はともに区画整理道路に面した正方形の土地であったが、より遠方の一二〇街区六に飛換地されて不便となり、また、一二〇街区六は整形ではなく農作業上も不便である。

(2) 原告正明について

〈1〉 従前地中畠三五・同七九・同八六・同九二・従前地権現西四八の一・同九一・同九四・同九五の一・同九六の一・同一一〇の一・同一一〇の二・同一一九の二・従前地権現浦五八と仮換地四一街区八について

右各従前地は、いずれも地味の肥えた土地であり、しかも原告正明の自宅からも近く、農耕には極めて良好な環境にあった。しかし、仮換地四一街区八への換地は、それによって自宅から遠くなるだけでなく、地味の悪い土地への換地であって農業経営上大きな不利益を受けるものである。右従前地のうち中畠三五・同七九については、同じ中畠地区といっても仮換地四一街区八に比べて格段に地味がよく、従前地権現西四八の一以下の土地についても同様に地味がよい。しかし、被告は、これら生産緑地北側の土地を換地規程による原位置換地の原則から外れて、すべて生産緑地の一番南側に押し込めるような形で仮換地指定をした。

〈2〉 従前地若ヶ橋一五七・同二一七・同二二〇と仮換地一二〇街区八について

右従前地は、いずれも本件土地区画整理事業地域の南側に位置しているにもかかわらず、仮換地は少々腰集合農地区及び第二種生産緑地の北方の位置に、すなわち自宅からより遠くへ換地されており、著しく不便となっている。

〈3〉 従前地日高一一一・同一一二と仮換地一八街区一について

右従前地は、原告正明の息子の自宅敷地として使用されているところ、本件仮換地指定処分により、駐車場兼資材置場として使用している自宅西側空地部分が道路にかかり、従前のように使用できなくなった。また、浄化槽が従前地日高一一一・同一一二に跨がって設置されており、その移動も余儀なくされた。

〈4〉 従前地権現西五〇と仮換地二九街区五について

右従前地には、プレハブ一棟、バラック二棟の農機具小屋があり、原告正明の所有する権現西四八の一、同四九の一、同五一、同九一、同九四、同九五の一、同九六の一と隣接し、また、同一一〇の一、同一一〇の二、同一一九の二にも近く、他の従前地からもほぼ中心に位置しており、農機具の保管や収穫した農作物の集積等に極めて便利であった。しかし、本件仮換地指定処分により、これらを移動する必要が生じ、農地から遠く離れた場所に農機具等を保管しなければならないという不都合が生じた。

4  よって、原告らは、本件各仮換地指定処分の取消しを求める。

二  本案前の答弁の理由

別紙目録(1)「従前の土地」欄記載の符号5ないし8の各土地、別紙目録(2)「従前の土地」欄記載の符号17ないし19の各土地について、平成三年三月二八日付けでされた各仮換地指定処分に対する取消請求は、その訴え変更時において行政事件訴訟法一四条の出訴期間を経過していたから、いずれも不適法である。

三  本案前の答弁に対する原告の反論

被告は、別紙目録(1)「従前の土地」欄記載の符号5ないし8の各土地、別紙目録(2)「従前の土地」欄記載の符号17ないし19の各土地について、昭和六三年一〇月三一日付けでした仮換地指定処分(以下「旧処分」という。)を、平成三年三月二八日付けで取り消し、同日付けで新たな仮換地指定処分(以下「新処分」という。)をしたが、新処分は、主として一二〇街区において予定されていた水路の設置計画の変更に伴い、旧処分における仮換地の位置等を若干移動させたに過ぎないものである。したがって、旧処分と新処分には、処分として同一性があるものと解すべきである。

そして、原告らは、旧処分に対し、審査請求をしたが、その裁決がされないので、出訴期間経過前である平成三年一二月二六日にその取消訴訟を提起し、さらに、その一部について、平成四年三月一八日に新処分に対する取消訴訟に訴えを変更したものであるが、右審査請求では、旧処分と処分としての同一性の認められる新処分に対しての不服も表明されていたというべきであるから、右訴えの変更の時点で新処分のされた平成三年三月二八日から三か月以上経過していたとしても、審査請求を経たものとして出訴期間の遵守に欠けるところはない。

四  請求原因に対する認否及び反論

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  同3の(一)(1)のうち、被告が、仮換地の指定案の作成を委託した訴外愛知県都市整備協会が仮換地の指定案を昭和六三年七月下旬に被告に提出したこと、換地担当理事会において一部修正をしたことは認め、その余は否認ないし争う。

同年八月四日及び五日の全体理事会で、右修正のみならず、地区全体の仮換地の合理性、妥当性について審議検討し、多少の紆余曲折を経て全会一致で議決したものであり、議決の適法性に何ら問題はない。

さらに、理事会において、仮換地全部を議題に供したもので、何ら秘匿していない。法八四条の閲覧請求について、仮換地指定の全内容がその対象となるとは解せられないのであり、これは請求者がたまたま理事であった場合も同様である。

3  同3の(一)(2)のうち、申込書(集合農地区換地(仮)申し出書)及び通知書(集合農地区換地指定通知書)の記載及び同通知書の送付は認め、その余は否認ないし争う。

二一街区及び四一街区は、当初から集合農地区であり、第二種生産緑地予定地であった。被告においては、「字」と「街区」の名称について、関係付けをしていない。また、右申出書及び通知書で予定している四一街区は、「日高地区」そのものであるから、原告らの申出と異なる地区への仮換地指定をしたものではない。

4  同3の(一)(3)のうち、原告忠則が、申出書の「希望」欄に「宮二」と記載していたことは認める。

しかしながら、「宮西地区」なる集合農地区は存在しない。施工区の北東部は、少々腰地区のみであり、少々腰地区は、一二〇、一一九、一〇六、一〇五及び一〇三街区であるところ、その中の第二種生産緑地である一二〇街区へ仮換地指定したものである。したがって、申出書及び指定通知書と異なる地区に仮換地指定をしたものではない。

5  同3の(一)(4)の事実は否認する。

6  同3の(二)は争う。

五  被告の主張(照応原則について)

集合農地区内に(仮)換地を定められるべき土地については、(仮)換地を集合農地区内に定めなければならない(大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法一九条(平成二年法律第六二号による改正前のもの。改正前の法律の題名は「大都市地域における住宅地等の供給の促進に関する特別措置法」。以下これを「大都市法」という。))ので、その限りにおいて、照応の原則(法九八条、八九条、換地規程六条本文)は修正を免れず、照応を保つことができないとしても、集合農地区への(仮)換地は、農地等の宅地の所有者の申出によるものであること(大都市法一八条)、集合農地区は「用排水その他の状況を勘案して農林業の継続が可能な条件を備えていること」(同法一七条二項二号)、申出に係る宅地の地積と集合農地区の面積の均衡がとれていること(同法一八条二項)等の要件を必要としていることから所有者の権利を侵害するものではない。以上から、集合農地区内に(仮)換地を定められるべき土地についての仮換地指定処分は、照応の原則に拘束されるものではない。

また、集合農地区を定める土地区画整理事業では、農地は集合農地を指定する(その前提として申出が必要)のが妥当であるから、従前地の地味の主張は失当であるし、集合農地区の地味は、換地を受けた者が施肥するなどによって改良できるものであり、希望にそって集合農地区へ換地すれば、農地としては最も地味のよい土地への換地というべきである上、集合農地区への換地を希望した以上、自宅住所からの遠近を論ずることは失当である。さらに、集合農地区、生産緑地への換地は、他の地域から飛び換地を受ける者に対してされる分もあって、従前地の位置関係を相対的に勘案して換地すべきであるから、従前地が集合農地区、生産緑地に隣接し、又は生産緑地内に存在するからといって、必ずしも原位置あるいはその近くに換地されるべきものではない。

以上を前提とすると、以下のとおり、本件各仮換地指定処分はいずれも適法である。

1  原告忠則について

(一) 従前地日高九六は、幅員一・二メートルの道路より約四五メートル隔てた島地であり、同一〇一は、西側が幅員一・二メートルの道路に面した奥行約四六メートル、間口約七・八メートルの奥行の長い土地である。

これに対して、仮換地四一街区五―一は、生産緑地内で北側が幅員六メートルの道路に面した奥行三三メートル、間口約一四・五メートルの普通地であり、原告忠則の希望により生産緑地内に換地したものである。

よって、右仮換地指定処分は適法である。

(二) 従前地日高一三三は、北側が幅員〇・九メートルの道路(自動車の進入は難しい。)に面した奥行約二四メートル、間口約一九・五メートルの普通地である。

これに対して、仮換地二一街区一〇―二は、生産緑地内に南側が幅員四メートルの道路に面した奥行約三七・六メートル、間口約一二・一メートルの普通地であり、原告忠則の希望により生産緑地内に換地したものである。

よって、右仮換地指定処分は適法である。

(三) 従前地日高一三四は、南側が幅員〇・九メートルの道路(自動車の進入は難しい。)に面した奥行約八メートル、間口約二七・二メートルの普通地である。

これに対して、二箇所に換地した仮換地二一街区一〇―一・同四一街区五―二のうち、前者は生産緑地内で南側が幅員四メートルの道路に面した奥行約三七・六メートル、間口約二・五メートルの普通地であり、後者は生産緑地内で北側が幅員六メートルの道路に面した奥行約三三メートル、間口約三・〇メートルの普通地であり、いずれも原告忠則の希望により生産緑地内に換地したものである。

よって、右仮換地指定処分は適法である。

(四) 従前地宮西六四は、北側が幅員約四メートルの道路に、西側が幅員二・四メートルの道路に面した奥行(南北)約二二メートル、間口(東西)約一九メートルの角地、同六五は、同六四の東側に隣接し、北側が幅員約四メートルの道路に面した奥行(南北)約二二メートル、間口(東西)約一八・七メートルの土地、従前地少々腰一三〇は、道路に面しない島地であって、西側約七〇メートル離れたところに、幅員約二・四メートルの道路があるに過ぎない土地、同一五九は、東側が幅員約二・四メートルの道路に面した奥行(東西)約八メートル、間口(南北)約一四・五メートルの不整形な比較的狭い土地である。

これに対して、仮換地一二〇街区六は、原告忠則の希望どおり生産緑地内で、南側が幅員六メートル、東側が幅員四メートルの道路の面する奥行(南北)約四五メートル、間口(東西)約二六・五メートルのほぼ整形な角地で、極めて利用しやすい土地であり、従前地四筆が一筆に見事に集団化され、農業生産性の向上に顕著に効果を上げており、十分に利用価値は増進し照応している。

よって、右仮換地指定処分は適法である。

2  原告正明について

(一) 従前地中畠三五は、東側が幅員一・八メートルの道路に面した奥行約三三メートル、間口約七メートルの普通地、同七九は、東側が幅員一・八メートルの道路に面した奥行約五九メートル、間口約七・八メートルの普通地、同八六及び同九二は、南側が幅員一・八メートルの道路に約一三・七メートル、北側が幅員一・二メートルの道路に約六・七メートル面した奥行約四八メートルの正背地、従前地権現西四八の一は、南側が幅員二・七メートルの道路に面した奥行約一五メートル、間口約五・八メートルの普通地、同九一、同九四、同九五の一及び同九六の一は、東側が幅員五・四メートルの道路に約一二・七メートル、北側が幅員二・七メートルの道路に約四七・二メートル面した奥行約五〇メートルのL字型の角地、同一一〇の一は、東側が幅員五・四メートルの道路に、西側が幅員一・二メートルの道路に約一〇・三メートル面した奥行約一〇メートルの正背地、同一一〇の二は、西側が幅員五・四メートルの道路に面した奥行約五メートル、間口約一〇・二メートルの普通地、同一一九の二は、幅員五・四メートルの道路より約三三メートル隔てた島地、従前地権現浦五八は、北側及び南側が幅員一・五メートルの道路に面した奥行約三八メートル、間口約九・九メートルの正背地である。

これに対し、仮換地四一街区八は、生産緑地内で南側及び東側が幅員六メートルの道路に面した奥行三四メートル、間口約七一メートルの角地であり、従前地一三筆が二三五六平方メートルという大きな一筆にまとめられたもので、生産緑地としては大きな恩恵を受ける筆の一つである。

よって、右仮換地指定処分は適法である。

(二) 従前地若ヶ橋一五七は、西側の約二九メートル離れたところに幅員約二メートルの道路があるに過ぎない島地、同二一七及び同二二〇は、相互に隣接しており、二筆全体として鍵型を呈し、そのうち前者は、西側が幅員約二・一メートルの道路に面し、奥行(東西)約一九メートル、間口(南北)約一七・五メートルの土地、後者は前者の南側に短辺(東西)約七・五メートル、長辺(南北)約一七メートルで接する土地である。

これに対し、仮換地一二〇街区八は、原告正明の希望どおり生産緑地内で、南側が幅員六メートルの道路に面し、奥行(南北)約四五メートル、間口(東西)約一三メートルの整形な普通地で、非常に利用しやすい土地であり、十分に利用価値は増進し照応している。

よって、右仮換地指定処分は適法である。

(三) 従前地日高一一一及び同一一二は、西側が幅員一・二メートルの道路に面した奥行約五三メートル、間口約九・二メートルの奥行の長い利用しにくい土地であり、後者には、原告正明の息子である訴外近藤泰幸の所有する建物が存在する。

これに対して、仮換地一八街区一は、北側及び西側が幅員六メートルの道路に面した奥行二〇メートル、間口約二一・五メートルの角地であり、右建物の南側に大きな空地ができた上、北側と南側の二面に道路がつき、土地の利用価値は非常に上がった。

浄化槽、機械資材小屋等の移転については、円満に補償契約が成立し、移転が終了した。

よって、右仮換地指定処分は適法である。

(四) 従前地権現西五〇は、南側が幅員二・七メートルの道路に面した奥行約一五メートル、間口約一一・三メートルの普通地である。

これに対して、仮換地二九街区五は、右従前地のほぼ原位置で、南側が幅員四メートルの道路に面した奥行約一四メートル、間口約一三メートルの普通地である。

よって、右仮換地指定処分は適法である。

六  被告の主張に対する認否

1  右五の1(四)のうち、仮換地一二〇街区六が、原告忠則の希望どおりであって、極めて利用しやすい土地であり、十分に土地の利用価値は増進し照応しているとする点は否認し、その余は認める。

2  右五の2(二)のうち、仮換地一二〇街区八が、原告正明の希望どおりであって、非常に利用しやすい土地であり、十分に利用価値は増進し照応しているとする点は否認し、その余は認める。

七  被告の主張に対する反論

集合農地区の特殊性は、換地に当たって、直ちに照応の原則一般の否定を正当化するものではなく、「位置」の照応について特別の考慮を要するに過ぎない。しかも、その「位置」についても、従前地は集合農地区内にあって、「飛び換地」とならずに換地が可能な場合には、原位置換地の原則を貫くことができないわけではないのであるから、そのような場合にこの原則に従えない理由はないのである。被告の主張によれば、集合農地区への換地は全くの裁量による恣意的な換地を許すことになり、到底公正さを保持し難い結果となる。また、大都市法が、集合農地区は「用排水その他の状況を勘案して農林漁業の継続が可能な条件を備えていること」(同法一七条二項)等の要件を定めているからといって、それが実際において実現しているとは限らないのであり、集合農地であれば、土質等は事業計画で照応するように整備改善するものとの前提で換地設計がされるのであるから、集合農地としてふさわしい整備改善がされていなければ、照応性が確保されないことは当然のことである。このような場合は、そのような不適格な集合農地区への仮換地指定は照応の原則に違反するものとして取り消されなければならない。そうでないと、集合農地区の設定自体による地権者の不利益は救済されないからである。

第三証拠(省略)

理由

一  本案前の主張について

被告が、別紙目録(1)「従前の土地」欄記載の符号5ないし8の各土地、別紙目録(2)「従前の土地」欄記載の符号17ないし19の各土地に対し、昭和六三年一〇月三一日付けで旧処分をした後、平成三年三月二八日付けでこれを取り消し、同日付けで新処分をしたこと、原告らが、旧処分に対して審査請求をし、新処分に対して改めて審査請求をしていないことは、当事者間に争いがなく、また、本件においては、右各土地についての取消請求は、本件訴え提起時(平成三年一二月二六日)には旧処分を対象としており、平成四年三月一八日になって新処分を対象とするものに訴えの変更がされたことは、当裁判所に顕著であるところ、証拠(乙四三ないし四八、五二ないし五四)と弁論の全趣旨によれば、右訴えの変更は、原告らが新処分のされたことを知った日から少なくとも三か月を経過した後にされたことが認められる。したがって、本件訴え中、新処分の取消請求に係る部分は、行政事件訴訟法一四条一項に規定する出訴期間を経過して提起されたものであり、不適法というほかない。

この点、原告らは、新処分は旧処分を変更して仮換地の位置等を若干移動させたに過ぎない内容であるから、旧処分と新処分との間には、処分としての同一性があるので、旧処分に対して昭和六三年一二月二三日に行った審査請求においては、新処分に対する不服も表明されていたことになるから、結局訴えの変更時を基準に考えても、行政事件訴訟法一四条四項により、何ら出訴期間の遵守に欠けるところはない旨主張する。

しかしながら、新処分が旧処分における仮換地の位置等を若干移動させたに過ぎない内容であったとしても、新処分は、旧処分とは別個の独立した仮換地処分であり、また、両処分は、換地予定地的な仮換地指定処分と換地処分との関係のように、前の処分の段階で後の処分を当然に予想し得、かつ、前の処分に対する不服内容が、そのまま後の処分に対する不服内容となるといった関係にはないから、前の処分に対する不服申立ての段階で、後の処分に対する不服の表明があったものと扱うことに合理性があるとすることはできない。したがって、旧処分に対する審査請求において、その段階で当然には予想されない新処分に対する不服まで表明されていたものと扱うことはできず、また、新処分がされたことから当然に旧処分に対する審査請求に新処分に対する不服申立てが含まれるに至ったとすることもできないというべきである。したがって、原告の右主張は、採用できない。

二  請求原因について

1  請求原因1及び2の事実は、当事者間に争いがない。

2  同3(一)(1)について

右のうち、被告が仮換地指定案の作成を委託した訴外愛知県都市整備協会が、仮換地指定案を昭和六三年七月二五日ころに被告に提出したこと、換地担当理事会において、仮換地案の一部修正がされたこと、以上の事実は当事者間に争いがないところ、証拠(証人中野喜雅、同八木賢、同近藤俊夫、原告近藤忠則本人)及び弁論の全趣旨によれば、さらに次の事実が認められる。

被告は、換地計画の策定その他の業務を訴外愛知県都市整備協会に委託し、同協会は、さらに、土地評価業務、仮換地指定業務等を訴外中央コンサルタンツ株式会社に委託した。同会社作成の仮換地図面案は、昭和六三年七月二七日に被告理事会に持ち込まれ、同日及び翌二八日、換地担当理事会において検討され、墓地関連の土地、相続が生じたため実際の所有者と登記名義人が一致していない宅地などについて修正案が出され、後日修正が行われた。その後、同年八月四日から五日にかけて、仮換地図面案についての理事会が開催され、理事長により右修正が説明された上、一筆の土地毎に仮換地内容が審議され、多数決で承認された。

以上の事実からすると、右理事会における承認手続は、法二八条二項及び被告組合定款一二条本文に従い適法にされたもの認められる(本件全証拠によるも、事前に一部の役員のみで恣意的に仮換地図面案が修正されたこと、修正の合理性、妥当性が全く検討されずに一部の役員が役得を図るなどの不公正が生じたことを認めることはできない。)。

そして、前掲証拠と弁論の全趣旨によれば、同年八月四、五日に理事会において仮換地案が決定された後、同年八月一一日から同月一九日まで、個人説明会において右仮換地案が権利者に説明され、他方、同月一六日から同月二九日まで、仮換地案が縦覧に供されたこと、縦覧の後、換地担当理事会において、権利者から提出された意見書に基づいて、不服のある部分につき、関係する権利者全員の承諾が得られたものについては仮換地案を変更するという方法によりさらに仮換地案の調整が行われ、同年一〇月一四日、理事会において仮換地指定総代会議案が決定され、同月二三日の総代会において、最終的に仮換地案が承認された上で、同月三一日に仮換地指定がされたことが認められるのであり、以上の手続に違法な点は見当たらない。

なお、法八四条は、施行者に対し、「規準、規約、定款又は施行規程並びに事業計画及び換地計画に関する図書その他政令で定める簿書」を主たる事務所に備え付けることを義務付け、正当な理由がない限り、利害関係人からの閲覧請求を拒んではならないと規定しているところ、原告は、被告が仮換地指定の全容を公開することを拒否したと主張するが、本件においては、原告らのいかなる簿書の閲覧請求に対し、被告がこれを拒否したのかは明らかではなく、また、本件においては、閲覧拒否という手続上の違法が本件各仮換地指定処分の違法をもたらすような重大な瑕疵であったとすべき事情を認めることもできない。

したがって、請求原因3(一)(1)の主張は、失当である。

3  同3(一)(2)について

昭和六二年九月付け「集合農地区換地(仮)申し出書」(甲二ないし四の各二)及び申出に対する昭和六三年一〇月二八日付け集合農地区換地指定通知書(甲二ないし四の各一)が、集合農地区及び第二種生産緑地として、「日高地区」と「少々腰地区」のみ存在することを前提としていることは、当事者間に争いがない。そこで、中畠の四一街区が、そもそも日高地区の一部であり、仮換地指定先として予定されていたかどうかを検討する。

証拠(甲一の一ないし三、甲八の三、乙二、三、乙九の一ないし一〇、乙一〇の一ないし一三、乙一〇の一一の一ないし五、乙一二の一ないし四、乙一三の一ないし三、乙七四、七八、八三、証人近藤俊夫)によれば、本件特定土地区画整理事業においては、施工区の北東部及び南西部の二箇所に集合農地区及び第二種生産緑地が計画されていたこと、被告設立準備時期から昭和六二年八月二〇日ころまで、右二箇所は、「少々腰・宮西地区」「日高・中畠地区」とそれぞれ表示されていたこと、昭和六二年八月二五日に開催された役員会においては、「少々腰・宮西地区」「日高・中畠地区」を、それぞれ単に「少々腰地区」「日高地区」と表示変更することを決議したこと、この表示変更につき、権利者に対して、同年九月五日及び同年九月一一日の二度にわたって説明会が開かれ、原告らもその説明会に出席したこと、昭和六二年九月の右「集合農地区換地(仮)申し出書」では、それ以前の調査と関係なく改めて申出をすべきものとされていたことが認められる。

以上の事実からすると、右申出の段階においては、四一街区は、日高地区に含まれて表示され、仮換地指定先として予定されていたことが認められるのであり、右認定に反する証拠(甲五八、原告近藤忠則本人、同近藤正明本人)の該当部分は採用できない。

したがって、原告忠則及び原告正明が「日二」として、「日高地区」への換地申出を行ったこと(甲二の二、三の二)に対し、被告が、「日高地区」の一部である四一街区にそれぞれ仮換地を指定をしたことをもって、違法とすることはできない。

なお、仮に、原告らが、「日高地区」の一部に四一街区が含まれることを知らないで、「日高地区」への換地の申出をし、これに対して、被告が、四一街区への仮換地を定めたものであるとしても、そのような原告らの主観的事情によって本件各仮換地指定処分が違法となるものではない。

4  同3(一)(3)について

右のうち、原告忠則が、申出書の「希望」欄に「宮二」と記載していたことは、当事者間に争いがない。

しかしながら、「宮西地区」なる集合農地区は存在せず、宮西に対応する施工区北東部の集合農地区は、少々腰地区のみであったことは、前記3で認定したとおりである。また、証拠(甲二の二、乙二、三)によれば、集合農地区換地(仮)申出書は、「日高地区」か「少々腰地区」かを特定して申出をすることになっており、地区の中の具体的位置まで特定して申出をすることにはなっていないこと、少々腰地区は、一二〇、一一九、一〇六、一〇五及び一〇三街区で構成されていること、一二〇街区は第二種生産緑地であることが認められるから、原告忠則が、宮西の第二種生産緑地を希望したことに対し、被告が、これを少々腰地区の中の第二種生産緑地への希望であるとして、一二〇街区へ仮換地指定をしたことをもって、違法とすることはできない。

5  同3(一)(4)について

(一)  原告らのうち、原告正明が、被告の運営から排除されたことを認めるに足りる証拠はない。

また、原告忠則についても、仮換地指定処分のされた昭和六三年一〇月三一日以前の段階で、理事として組合の運営に関与することを排除されたことを認めるに足りる証拠はない。

(二)  さらに、原告らは、原告らに対して被告が強引に工事を強行したことを違法事由として主張するが、処分後にそのような事情が生じたとしても、それによって処分が遡って違法となるものではない。

6  同3(二)について

法九八条二項、八九条一項は、(仮)換地を定める場合においては、(仮)換地及び従前の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するよう考慮しなければならないという照応の原則を定めているところ、すべての条件が従前の土地に照応するように(仮)換地を定めることは、技術的にほとんど不可能であるから、照応の原則を定めた右規定の趣旨は、右の諸要素を総合的に勘案して、(仮)換地が、従前地と大体同一の条件をもって、しかも公平に定められるべきことを求めたところにあると解すべきである。

したがって、仮換地指定処分が照応の原則に反して違法とされるには、単に仮換地が従前の土地と比較して多少の不照応の点があるというだけでは足りず、前記諸要素等を総合的に勘案してもなお従前の土地と著しく条件が異なり、かつ、殊更に特定の者の不利益を図ったとか、あるいは近隣の土地と比較して著しく不利益でそのことにつき合理的理由がない場合等の事情がなければならないものと解するのが相当である(なお、換地規程三条、六条は、仮換地について「なるべく原位置に近い位置において従前の土地の位置に照応するように定める」旨規定しているが、法の趣旨を再確認したに過ぎず、右判断基準に影響を与えるものではない。)。

さらに、大都市法一七条一項は、特定土地区画整理事業の事業計画においては、建設省令で定めるところにより集合農地区を定めることができる旨規定し、同条二項二号で、右集合農地区は「用排水その他の状況を勘案して農林漁業の継続が可能であること」との要件を定め、さらに、同法一八条一項は、集合農地区への換地は、申出によることと規定した上、同法一八条二項の指定を受けた宅地については、同法一九条により集合農地区に換地すべき旨規定している。

そうすると、右各規定により認められた集合農地区内への(仮)換地については、その性質上、一般の換地の場合と異なり、従前地と換地との間に位置・土質の違い等が生ずることが多く、一般の換地の場合と同様の照応を要求することができないことは、法が当然に予定しているところというべきである(申出を要件としているのはそのためでもある。)。

したがって、特定土地区画整理事業について、「土地区画整理法及びこの章の定めるところによる」と規定している同法一〇条の規定に基づき法八九条一項を適用するに当たっては、位置・土質についてある程度の違いが生じても、それを特に不合理とすべき特段の事情がない限り、照応の原則に反しているとすることはできない。

以下、右のような観点から、本件各仮換地につき検討する。

(一)  原告忠則の仮換地(従前地日高九六・同一〇一と仮換地四一街区五―一、従前地日高一三三と仮換地二一街区一〇―二、従前地日高一三四と仮換地二一街区一〇―一・同四一街区五―二)

(1) 以下の事実については、原告忠則が明らかに争わない。

〈1〉 従前地日高九六は、幅員一・二メートルの道路より約四五メートル隔てた島地であり、同一〇一は、西側が幅員一・二メートルの道路に面した奥行約四六メートル、間口約七・八メートルの奥行の長い土地であるのに対し、仮換地四一街区五―一は、生産緑地内で北側が幅員六メートルの道路に面した奥行三三メートル、間口約一四・五メートルの普通地であること。

〈2〉 従前地日高一三三は、北側が幅員〇・九メートルの道路(自動車の進入は難しい。)に面した奥行約二四メートル、間口約一九・五メートルの普通地であるのに対し、仮換地二一街区一〇―二は、生産緑地内で南側が幅員四メートルの道路に面した奥行約三七・六メートル、間口約一二・一メートルの普通地であること。

〈3〉 従前地日高一三四は、南側が幅員〇・九メートルの道路に面した奥行約八メートル、間口約二七・二メートルの普通地であるのに対し、二箇所に換地した仮換地二一街区一〇―一・同四一街区五―二のうち、前者は生産緑地内で南側が幅員四メートルの道路に面した奥行約三七・六メートル、間口約二・五メートルの普通地であり、後者は生産緑地内で北側が幅員六メートルの道路に面した奥行約三三メートル、間口約三・〇メートルの普通地であること。

(2) そして、証拠(甲二の二、甲七、甲二四の一、二、四、五、甲二六の一ないし二九、三三、甲二七の三、四、乙一九の一ないし三、乙二〇の一、二、乙二一ないし二三、乙二四の一、二、乙二五の一ないし四、乙六五、六八、七一、八三、八六、八七、八九ないし九二、九三、一〇一、証人八木賢、同近藤俊夫、原告近藤忠則本人、同近藤正明本人)と弁論の全趣旨によれば、原告忠則は、従前地日高九六、同一〇一、同一三三及び同一三四に対する換地として日高地区の第二種生産緑地を希望していたこと(二一街区及び四一街区は、いずれも日高地区に含まれる。)のほか、以下の事実を認めることができる。

〈1〉 同じ時期における従前地日高一〇一、同一三三及び同一三四と仮換地四一街区八の里芋の作柄を比較すると、仮換地四一街区八の方が作柄が良く順調に成育していること(なお、甲第二七号証によれば、四一街区の里芋より日高一〇一の里芋の方が良く成育しているが、乙第六八、六九、七一号証に照し、四一街区より日高一〇一の方が土質が良いとまでは認められない)。

〈3〉 四一街区の土地は、やや酸性で豊肥力に欠けるものの施肥などの若干の改良で農業に支障がなく、放置すれば雑草雑木が生え、実際に農業が営まれてさつまいもだけでなく、キャベツ、ブロッコリー、大根等の農業生産物が成育していること。

〈4〉 四一街区はもともと西へ行くほど耕土が浅くなるものであり、そのため、被告は耕土が浅いところについては深さが一メートル程度となるよう耕土入れ替え工事を実施したこと、工事を実施していない四一街区七の土地の西側は耕土の深さが約一メートル、四一街区三の土地の南側は耕土の深さが約一・四メートル、四一街区五―一と四一街区四との境界付近の北側の耕土の深さは一・二メートル程度あること。

〈5〉 右〈1〉ないし〈3〉の事実からすると、仮換地四一街区五―一及び同五―二は、特に土質が悪いということはなく、耕土の深さも一メートル程度は確保されており、いずれも農業を継続するのに特段の支障はないと考えられること。

(3) 以上の(1)(2)の各事実からすると、右各従前地とこれらに対応する各仮換地の間には、殊更に原告忠則の不利益を図った等の事実は認められず、いずれも全体として照応しているものと認められる。

原告忠則は、四一街区への換地は、自宅から遠くなるだけでなく、地味の悪い土地への換地であって、農業経営上大きな不利益となる、二一街区への換地は、現位置換地の原則(従前地日高一三三及び同一三四に最も近接した二一街区の土地に換地されること)から離れて、二一街区の中でも遠方に飛換地されているとの理由で、照応の原則に反する旨主張する。

しかしながら、四一街区の地味が、従前地日高一〇一、一三三及び一三四より特に悪いものではないことは右(2)で認定したとおりであり、また、前示のとおり、そもそも特定土地区画整理事業において施工区に集合農地区を定めた場合、位置・土質については、一般の換地の場合と同様の要求をすることができないことは法が予定しているものである上、証人八木賢の証言によれば、本件においては、集合農地区内での換地の位置についても、各地権者の従前地の位置関係を相対的に勘案して決定され、その上で被相続人名義の土地や同一家族の宅地については集合させるよう配慮して仮換地を決定したことが認められるのであり、殊更に原告忠則の不利益を図った等の事情は認められず、照応の原則に反するとまではいえない。

(二)  原告正明の仮換地

(1) 従前地中畠三五・同七九・同八六・同九二・従前地権現西四八の一・同九一・同九四・同九五の一・同九六の一・同一一〇の一・同一一〇の二・同一一九の二・従前地権現浦五八と仮換地四一街区八

〈1〉 従前地中畠三五は、東側が幅員一・八メートルの道路に面した奥行約三三メートル、間口約七メートルの普通地、同七九は、東側が幅員一・八メートルの道路に面した奥行約五九メートル、間口約七・八メートルの普通地、同八六及び同九二は、南側が幅員一・八メートルの道路に約一三・七メートル、北側が幅員一・二メートルの道路に約六・七メートルに面した奥行約四八メートルの正背地、従前地権現西四八の一は、南側が幅員二・七メートルの道路の面した奥行約一五メートル、間口約五・八メートルの普通地、同九一、同九四、同九五の一及び同九六の一は、東側が幅員五・四メートルの道路に約一二・七メートル、北側が幅員二・七メートルの道路に約四七・二メートル面した奥行約五〇メートルのL字型の角地、同一一〇の一は、東側が幅員五・四メートルの道路に、西側が幅員一・二メートルの道路に約一〇・三メートル面した奥行約一〇メートルの正背地、同一一〇の二は、西側が幅員五・四メートルの道路に面した奥行約五メートル、間口約一〇・二メートルの普通地、同一一九の二は、幅員五・四メートルの道路より約三三メートル隔てた島地、従前地権現浦五八は、北側及び南側が幅員一・五メートルの道路に面した奥行約三八メートル、間口約九・九メートルの正背地であるのに対し、仮換地四一街区八は、生産緑地内で南側及び東側が幅員六メートルの道路に面した奥行三四メートル、間口約七一メートルの角地であり、従前地一三筆が二三五六平方メートルという大きな一筆にまとめられたこと、以上の事実については、原告正明が明らかに争わない。

〈2〉 そして、甲第三号証によれば、原告正明は右各従前地に対する換地として、いずれも日高地区の第二種生産緑地を希望していたことが認められる。

〈3〉 以上の〈1〉〈2〉の各事実と、右(一)の(2)〈1〉ないし〈3〉で認定した事実を併せて考えると、右各従前地とこれに対応する仮換地は、全体として照応しているということができる。

原告正明は、右各従前地の地味の良さと比較し、また、自宅からの距離が遠くなることを理由に照応していない旨主張するが、地味の点については、仮換地の地味が近隣の土地と比較して格段に劣っており、原告正明に対し、殊更にそのような仮換地を指定したというような事情を認めるに足りる証拠はないし、また、第二種生産緑地を希望した以上、その範囲で自宅からの距離が遠くなることは当然に予想されるところであるから、照応の原則に反するとまではいえない。

(2) 従前地日高一一一・同一一二と仮換地一八街区一

従前地日高一一一及び同一一二は、西側が幅員一・二メートルの道路に面した奥行約五三メートル、間口約九・二メートルの奥行の長い土地であり、後者には、原告正明の息子である訴外近藤泰幸の所有する建物が存在するのに対し、仮換地一八街区一は、北側及び西側が幅員六メートルの道路に面した奥行二〇メートル、間口約二・五メートルの角地であり、右建物の南側に大きな空地ができること、以上の事実については、原告正明が明らかに争わない。

右事実からすると、右仮換地指定処分により、土地の利用価値は増進したものと認められるのであり、全体として十分照応しているというべきである。

この点、原告正明は、駐車場兼資材置場として使用していた空地が使用できなくなり、浄化槽の移転も余儀なくされた旨主張するが、前者については、既存建物の南側に空地ができたことから、それだけでは照応の原則に反するとまではいえないし、後者についても、証拠(乙一〇〇)によれば、移転につき補償契約が成立したことが認められる上、そもそも仮換地指定処分後の補償の問題であって、仮換地指定処分そのものに影響を与える事由とはいえないから、右結論を左右するものではない。

(3) 従前地権現西五〇と仮換地二九街区五

従前地権現西五〇は、南側が幅員二・七メートルの道路に面した奥行約一五メートル、間口約一一・三メートルの普通地であるのに対して、仮換地二九街区五は、右従前地のほぼ原位置で、南側が幅員四メートルの道路に面した奥行約一四メートル、間口約一三メートルの普通地であること、以上の事実については、原告正明が明らかに争わない。

右事実からすると、右仮換地指定処分は、全体として照応しているものと認められる。

この点、原告正明は、右従前地に存在したプレハブ一棟、バラック二棟の農機具小屋を移動する必要が生じ、農地から遠く離れた場所に農機具等を保管しなければならなくなったと主張するが、証拠(甲二九、乙七四、七七)によれば、従前地の最も南に存在したバラックの移転については、補償契約に基づいて補償金が支払われた上、北側のプレハブについては、東側の他人の仮換地との境界線との間隔が九〇センチメートルあることから、組合としては、農作業のための出入りに支障がないとの理由で補償を要しないものと判断したことが認められ、以上の事実からすると、使用状況の点で、原告正明の主張するような多少照応していない点が出てくるとしても、原告正明に対して殊更に不利益を図った等の事情は認められないというべきであるし、補償額については、そもそも損失補償の問題(法七八条一項、三項、七三条二項、三項)として解決されるべきであって、仮換地指定処分そのものを違法ならしめるものではないから、右主張は、失当というほかはない。

三  結論

以上判示したところによると、原告らの訴え中、被告が平成三年三月二八日付けで別紙目録(1)「従前の土地」欄記載の符号5ないし8の各土地についてした各仮換地指定処分の取消請求に係る部分、被告が平成三年三月二八日付けで別紙目録(2)「従前の土地」欄記載の符号17ないし19の各土地についてした各仮換地指定処分の取消請求に係る部分は、いずれも不適法であるからこれを却下し、原告らのその余の請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡久幸治 森義之 田澤剛)

別紙目録(1) 近藤忠則関係

従前の土地

仮換地

符号

所在地

地目

地積

符号

街区

仮地番

地積

1

丹羽郡大口町大字余野字日高96番

231m2

1

41

5-1

478m2

2

丹羽郡大口町大字余野字日高101番

347m2

3

丹羽郡大口町大字余野字日高133番

466m2

2

21

10-2

458m2

4

丹羽郡大口町大字余野字日高134番

228m2

3

21

10-1

95m2

4

41

5-2

100m2

5

丹羽郡大口町大字余野字宮西64番

380m2

5

120

6

1,091m2

6

丹羽郡大口町大字余野字宮西65番

423m2

7

丹羽郡大口町大字余野字少々腰130番

446m2

8

丹羽郡大口町大字余野字少々腰159番

72m2

別紙目録(2) 近藤正明関係

従前の土地

仮換地

符号

所在地

地目

地積

符号

街区

仮地番

地積

1

丹羽郡大口町大字余野字日高111番

171m2

1

18

1

429m2

2

丹羽郡大口町大字余野字日高112番

333m2

3

丹羽郡大口町大字余野字中畠35番

241m2

2

41

8

2,358m2

4

丹羽郡大口町大字余野字中畠79番

439m2

5

丹羽郡大口町大字余野字中畠86番

314m2

6

丹羽郡大口町大字余野字中畠92番

320m2

7

丹羽郡大口町大字余野字権現西48番1

72m2

8

丹羽郡大口町大字余野字権現西91番

99m2

9

丹羽郡大口町大字余野字権現西94番

82m2

10

丹羽郡大口町大字余野字権現西95番1

115m2

11

丹羽郡大口町大字余野字権現西96番1

400m2

12

丹羽郡大口町大字余野字権現西110番1

112m2

13

丹羽郡大口町大字余野字権現西110番2

49m2

14

丹羽郡大口町大字余野字権現西119番2

135m2

15

丹羽郡大口町大字余野字権現浦58番

370m2

16

丹羽郡大口町大字余野字権現西50番

178m2

3

29

5

150m2

17

丹羽郡大口町大字余野字若ケ橋157番

241m2

4

120

7

583m2

18

丹羽郡大口町大字余野字若ケ橋217番

307m2

19

丹羽郡大口町大字余野字若ケ橋220番

128m2

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